ベアメタルサーバ、量子コンピュータで拡がる組合せ最適化技術を応用した独自サービスの可能性

2024年03月21日掲載

ベアメタルサーバ、量子コンピュータで拡がる組合せ最適化技術を応用した独自サービスの可能性

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業務効率化やDXなど企業が直面する諸課題を解決する技術として期待が高まるAI。誰でも簡単に利用できるAIサービスが続々登場し、ビジネスの様々な領域で活用が進むなか、「最適化で社会を変革する」をコンセプトに、ユニークな最適化サービスを展開するのが株式会社モーション(以下、モーション)だ。独自の“組合せ最適化”技術について紐解きつつ、インフラ基盤に求める要件や、将来のビジョンなどについて、同社のお二人に話を伺った。

目次

●お話を聞いた方

株式会社モーション

代表取締役
上杉 顕一郎 氏

株式会社モーション

執行役員
クラウドサービス部 部長
伴 英明 氏

最適化サービスベンダとしての歩み

------ 最適化サービスを多数展開するに至った経緯を教えてください。
伴氏:当社は統計解析を専門とする企業として1999年に設立し、ECサイト用レコメンドエンジンの開発など受託開発を中心にビジネスを展開。2002年には法人名義の携帯電話に関わる業務やコストを最小化する最初の自社サービス(KCS Motion)をリリースしています。様々な開発案件を手がけるなかで、弊社の事業の共通テーマが“最適化”です。

さきほどのレコメンドエンジンも、消費者ニーズと商品をマッチングするという意味では最適化であり、社会やビジネスのあらゆる課題を解決するうえで最適化は欠かせないものとなり、よく耳にするようになりました。最適化は一見、無駄をなくし効率化することをイメージすると思いますが、たとえば、日本人の美徳とされる“おもてなし”においては、少なからず“無駄”を内包することで成り立っており、業務効率化を目指す最適化と、あえて無駄を残すことでおもてなしを演出する最適化もあると考えています。

弊社はその最適化の応用分野の広さに着目し、「組合せ最適化」という技術を用いて、EVの充電待ち時間を解消するEV充電器管理システム(2010年)の実証実験などを手掛けてきました。そこで培った技術をベースに自社のSaaS事業を立ち上げようと、最適な勤務シフトを自動作成する「Optamo(2018年)」を皮切りに、フリート車両の管理を最適化する「FLEETWORKS(2023年)」や、同じくフリートEVの運用やコストを最適化する「Opteiv(2023年)」などのクラウドサービスをリリースしております。

現在は、私が担当するクラウドサービス部やモビリティソリューション部のSaaSビジネスと、個別の受託開発事業が半々の状況です。受託開発においては、九州旅客鉄道株式会社様の鉄道車両の点検スケジュールを最適化する保守管理システム(2021年)の開発事例もあります。また最適化の事業ではありませんが、自社サービスとして、ライドシェアの先駆けとも言うべき相乗りサービス「togethere(2017年)」も展開しています。

モーションのサービスにおける“組合せ最適化”技術の特長

------ “組合せ最適化”技術とはどういうものか、モーションの最適化サービスの特長を含め教えていただけますか。
伴氏:統計解析の世界で有名な“巡回セールスマン問題※”がありますが、同様の問題について、膨大な組合せの中から最適解を見つけ出す技術です。togethereの場合ですと、乗車場所が異なる複数の乗客をもれなくピックアップして目的地まで送り届ける、Optamoの場合は、希望する勤務時間や経験・スキルが異なる従業員を組み合わせて勤務シフトを作成するのが目的ですが、膨大な組合せのなかから、コストや時間はもちろん、勤務シフトでは従業員同士の相性まで考慮して最適解を導き出す必要があります。

現在主流となっているML/DLなどのAIでは、可能な限り大量の教師データを用意して学習させるアプローチをとりますが、弊社のサービスでは、この事前学習のプロセスをなくし、細かく条件を設定することで先読みをして近似解(最適解ではなく)を導くのが特長です。Optamoについて言うと、長時間かかって「はい、これが最適なシフトです」と示されるより、短時間で自分のイメージに近い“たたき台(=近似解)”が出てきて、それを微調整して仕上げる方が、シフト管理者にとって納得感が高いという考え方です。

ユーザが条件を設定できるシフト作成ツールは他社にもありますが、1か0かでしか調整できない場合が多いです。これに対し弊社サービスは標準機能として0~1の間で濃淡をつけることができ、SaaSながら百社あれば百通りの仕様によって、よりイメージに近い近似解を導くことができます。「教師データが少ないせいかAIのアウトプットがしっくりこない…」という声をあちらこちらで耳にしますが、時間と手間をかけてさらに教師データを用意するのではなく、アルゴリズムをチューニングしてアウトプットをイメージに近づけることができるのは、完全自社開発の弊社サービスならではの強みと言えます。

※都市の集合と各2都市間の移動コストが与えられたとき、すべての都市をちょうど1度ずつ巡り出発地に戻る巡回路のうちで、総移動コストが最小のものを求める問題。都市の数が30の場合、スーパーコンピューター「京」でも計算に1,401万年かかるとされる。

最適コストで提供するために、クラウド基盤にベアメタルサーバの提案も

------ Optamoについては、IBM Cloudのベアメタルサーバを基盤として提供するケースがあるようですが、それはどのような理由からでしょうか。
上杉氏: Optamoに限らず弊社サービスをSaaSで提供しているのは、組合せ最適化の計算処理がCPUやメモリなどのリソースにハイスペックを求めるためです。一部の大企業はオンプレミスでこうした環境を用意できるかもしれませんが、大多数の企業にとって非現実的です。将来を見越した余力のあるサイジングが必要ですし、時とともに陳腐化してしまうリスクもあります。

その点、クラウド(IaaS)であれば、最新スペックのリソースを組み合わせたHPC環境を最適コストで構築して、必要に応じて迅速にリソースを拡張することも可能です。必要な処理能力を現実的な料金で提供できるのは、クラウド(IaaS)あってことのことですが、それでも、マルチテナントで仮想マシンを利用する一般的なIaaSでは、お客様ニーズを満たせない場合があります。組合せの対象となる従業員数や設定条件の数やパターンなど、分析規模が大きく、しかもできるだけ短時間で結果を得たいといったケースです。

このようなニーズをお持ちのお客様には、クラウド基盤として、IaaSながら専有物理環境(ベアメタルサーバ)を実現する「IBM Cloud」を提案しています。Optamoには、シフト作成を自動化する「Optamo for Shift」のほか、それにプラスして日々のタスク割当までおこなう「Optamo for Task」の2種類がありますが、大企業のお客様の場合、Optamo for Taskで 1ヶ月分のシフトと日別タスクを作成するのに数週間かかることもあります。当然、料金はベアメタルサーバの方が割高ですが、計算処理の時間短縮によって結果的にコスト削減できる可能性があり、お客様に合わせて最適なインフラを提供することになります。

組合せ最適化と極めて親和性の高い量子コンピュータに今後を期待

------ 最後に、IBMやソフトバンクとの協業を含め、今後の計画などありましたら教えてください。
上杉氏:弊社は元々、統計解析ソフトウェア「SPSS」の国内テクニカルベンダでして、SPSS社がIBMグループに買収されて以降、お付き合いが始まったという経緯があります。弊社の事業ドメインとなっている組合せ最適化など統計解析の領域では、さきほど説明したとおり、強力なコンピュートリソースがものを言います。

その意味において、IaaSでベアメタルサーバを提供するIBM Cloudは、弊社のビジネスやサービスにとって非常に貴重な存在ですが、やはり注目は、処理性能が飛躍的に向上する“量子コンピュータ”です。研究機関や一部大企業によるテストフェーズを経て、クラウド型の商用サービスも登場しており、さらに利用しやすくなることを期待しています。組合せ最適化技術との親和性も極めて高く、引き続きIBMとの協業を進められればと思います。組合せ最適化自体は古くからある技術ですが、これを応用した商用AIサービスは少なく認知度も低いため、国内屈指の営業力やサポート力を誇るソフトバンクのお力を借りて、一緒にお客様を開拓していきたいと思います。